イットウサイセンセイケンポウショヤクチュウ

一刀斎先生剣法書訳注 Ittousai Sensei Kenpousho: An Annoted Text in Modern Japanese

剣豪伊藤一刀斎の教え
竹田隆一・長尾直茂 編
ISBN 978-4-585-37002-4 Cコード 0075
刊行年月 2022年3月 判型・製本 A5判・並製 128 頁
キーワード 文化史,日本史,江戸,近世

定価:1,980円
(本体 1,800円) ポイント:54pt

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書籍の詳細
心とは何か、剣とは何か?

近世初期、徳川家や諸大名の間で剣術の流派として絶大な信頼を得て以来、現代の剣道にまでその影響を及ぼし続ける「一刀流」。
その始祖である伊藤一刀斎は、唯一無二の一刀をいかに語ったのか。
一刀斎の剣法理論や思想を述べた伝書として知られる『一刀斎先生剣法書』を諸本の校合による本文校訂から見直し、あらためてその全編の平易な現代語訳を試みた。
さらに深い探求をこころざす方のための詳細な注釈や解説も付した決定版。

 

 

目次
はじめに 竹田隆一・長尾直茂

『一刀斎先生剣法書』現代語訳
第一章  序文 あわせて事理不偏の事について記す
――一刀流(唯心一刀流)は、技と道理とが不即不離の関係にあること、すなわち「事理不偏」を極めることを本質とし、具体的には剣術と心とが一致することを目指す、「剣心不異の伝授」を秘伝とする。

第二章  勝負の事を記す
――剣術の達人は、わが勝利の背後にある敵が負けた要因を理解し、わが敗北の背後にある敵が勝った要因を理解する。すなわち、敵を知り己を知るならば、百戦しても負けることはないのである。

第三章  構えの事 あわせて無形の位について記す
――構え自体に善し悪しはなく、どの構えでも自分の手にぴったりと合い、気持ちにかなった構えを用いるべきである。このように心と構えとが一致した構えをこそ当流においては「無形の構え」と呼ぶのである。

第四章  威勢の事 あわせて不転の位と転化の位について記す
――敵に相対しても変化しないことは「威」があるからであり、身は「不転の位」にある。動いて敵を制御し得るのは「勢」があるからであり、身は「転化の位」にある。威は静でありつつ、あらゆる変化にそなえた準備があり、勢は動でありつつ、あらゆる変化に対応する。威で敵と向かい合い、勢で敵に勝つのである。

第五章  移写の事 あわせて捧心の位と残心の位と水月の位について記す
――能動的に敵のもとへ移動する「移り」には、道理にかなった守りが必要であり、受動的に無心に敵の姿を捉える「写す」には、技を駆使して敵を攻めることが必要である。当流では、前者の「移り」を「捧心の位」、後者の「写す」を「残心の位」と伝授し、道理でもってこれを示す際には「水月の伝授」の比喩を用いる。

第六章  理に虚実本末がある事 あわせて必勝の位について記す
――心の働きや身体能力が大本として背後にあり、その末である技や剣の操作技能が表にあらわれる状態「剣前体後」を「実」といい、これは「順」の状態である。末である技や剣の操作技能が背後にあって見えず、その本である心や身体能力が前面にあらわれる状態「体前剣後」を「虚」といい、これは「逆」の状態である。「実」の状態は、必ず勝利する「必勝の位」であり、「虚」の状態は、偶然の勝利ともいうべき「不定の勝」である。

第七章  事に虚実本末がある事 あわせて残不残の位について記す
――技で敵を攻める時は、道理で自己を守り、道理で敵を攻める時は、技で自己を守ることを「残」といい、これは攻守兼備の状態であり、敵に勝利する。技・道理のいずれにおいても攻め、あるいは守ることを「不残」といい、これは敗北につながる。

第八章  先後に止まらざる事 あわせて邪正一如の位について記す
――ひたすら先手を取る「先」に偏るのでもなく、ひたすら後手に回って受けてたつ「後」に偏るのでもなく、先手を取った時には後手に回って受けてたつことも内に兼ね、また後手に回って受けてたつ時には先手を取ることも内にそなえていることが肝要である。

第九章  先に体用がある事
――先手を取って攻める「先」には、道理をもちいる「体」と、技をもちいる「用」の二つがある。

第十章 後にも体用がある事
――後手に回って受けて立って攻める「後」には、敵の「体」と「用」とを利用する二つの方法がある。

第十一章 勝負における間の有り様についての事
――敵との間合いの取り方が重要ではあるが、それにとらわれてはならず、心に間をとどめず、間に心をとどめず、自由自在な境地に自己を置くことこそが大切である。

第十二章 鸚鵡の位についての事
――敵の技に同じような技で対応すること、敵の道理をわが道理として利用すること、このどちらをも「鸚鵡の位」という。

第十三章 一心不変の位についての事
――敵の動きの機微を察し、敵の未発の状態をすばやく打つことを「単刀」という。これは、よこしまな思いのない心境にあらねばできず、これを「一心不変の位」という。

第十四章 一で二に応対する事
――敵よりも優位に立つためには、自己の一手が敵への二手となる、切落しのような技を繰り出すことが重要である。

第十五章 刀剣に長短の区別がある事 あわせて長短一味の伝授について記す
――刀剣の長短に応じて技は臨機応変に繰り出すべきであり、その寸法にばかりこだわるべきではない。刀剣の長短は自分自身の腕や気持ちにかなうことが重要であり、その意味においては刀の長いも短いも同じことなのだ。

第十六章 殺人刀と活人剣の事
――彼我の区別をなくし、自分と敵とが一心一体となることで別伝の高い境地に達することができる。こうなると勝利も敗北も一つのものとして捉えることができ、こうあるべきだという技や道理の束縛からも離れて、殺人刀から活人剣まで自在に用いることができるのである。

『一刀斎先生剣法書』原文および注釈
第一章  序 附事理不偏之事
第二章  勝負之事
第三章  構之事 附無形位
第四章  威勢之事 附不転位 転化位
第五章  移写之事 附捧心位 残心位 水月位
第六章  理有虚実本末事 附必勝位
第七章  事有虚実本末事 附残不残位
第八章  先後不止之事 附邪正一如位
第九章  先有体用事
第十章  後有体用事
第十一章 勝負間積之事
第十二章 鸚鵡位之事
第十三章 一心不変位之事
第十四章 一二応対之事
第十五章 剣有長短事 附長短一味伝授
第十六章 殺人刀活人剣之事

解 題
『一刀斎先生剣法書』の諸本をめぐる一考察 長尾直茂
武道伝書とスポーツ運動学 竹田隆一

あとがき―今から二十年以上も前のこと 竹田隆一・長尾直茂
プロフィール

竹田隆一(たけだ・りゅういち)
1956年生まれ。山形大学教授。専門はライフサイエンス・スポーツ科学。剣道教士7段。
主な著書に、『HUMAN SPORT SCIENCE』(ヒューマンスポーツ研究会編、中央法規出版社、1991年)、『ゼミナール現代剣道』(全国教育系大学剣道連盟編、窓社、1992年)、『これならできる剣道―武道必修化時代の“五輪書”』(スキージャーナル、2014年)などがある。

長尾直茂(ながお・なおしげ)
1963年生まれ。上智大学教授。専門は中国古典学・日本漢学。
主な著書に、新書漢文大系21『世説新語』(編著、明治書院、2003年)、『吉嗣拝山年譜考證』(勉誠出版、2015年)、『頼山陽のことば』(斯文会、2017年)、『本邦における三国志演義受容の諸相』(勉誠出版、2019年)などがある。

書評・関連書等

★書評・紹介★
「刀剣画報 三日月宗近・藤四郎吉光・堀川国広 京の刀」(2022年6月6日発行)にて紹介されました。

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