つらい貧しさから、明るい貧しさ、そして気高き貧しさまで。
苦しい日常こそが、人の生き方を輝かせる。
私小説を外しては、日本文学は語れない。
私小説は日本人が作り上げてきた誇るべき文学の一様式である。日本語や日本文化の性格から生まれ成長して、今や人間を言葉によって探求し表現する器の一つとして、日本文化のなかに確たる位置を占めている。
この『コレクション 私小説の冒険』は、私小説が、いかに人とその生について豊饒な世界を見せているかを明らかにする小説集である。
【推薦文】
別段、私小説の復権を願っているものではない。前世紀的遺物でも一向にかまわない。私にとって、これはどうでも読まずにいられない対象であり、また、意地でも書かずにはおられぬ対象のものでしかないからだ。
もっとも、私小説だからと云って簡単に、十把一絡げで語られるのには腹が立つ。
なかなかに侮れぬところを有した厄介な形式であることを、本叢書収録作家群の多彩なバリエーションが如実に示してくれよう。
西村賢太