カソウトリョウボセイノブッキョウミンゾクガク

火葬と両墓制の仏教民俗学

サンマイのフィールドから
岩田重則 著
ISBN 978-4-585-22212-5 Cコード 1021
刊行年月 2018年7月 判型・製本 A5判・上製 336 頁
キーワード 文化史,民俗学,仏教,日本史

定価:6,600円
(本体 6,000円) ポイント:180pt

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書籍の詳細
お墓がふたつに分かれた理由―
それは、西方の墓場を歩むことで紐解かれる

両墓制。遺体の埋葬地と、遺族が参拝する石塔墓地が分かれた墓制をこう呼ぶ。
その分布は近畿・中部地方に濃厚である。なぜこの地では、両墓制をとったのか?
柳田国男・折口信夫らに始まる墓制研究は、なぜそれを「固有の信仰」ととらえてしまったのか?
その発生の起源と歴史的展開を実際のフィールドから探り、仏教と深く結びついてきた両墓制の実態を明かす。

*サンマイとは…
「三昧」とも。サンスクリット語から音訳された仏教用語で、心が静かに安定した状態を示す。それが時代を経て変化し、現在では遺体埋葬地や火葬場を指すことが多い。本書では埋葬地・火葬場を指す民俗用語としてカタカナで「サンマイ」と表記する。

 

 

目次

 課題としての両墓制―仏教民俗的現実
 民俗語彙と民俗事象―記号表現と内容

Ⅰ サンマイ―比較の方法
一 記号としてのサンマイ
 民俗語彙としてのサンマイ⑴―両墓制の遺体埋葬地
 民俗語彙としてのサンマイ⑵―民俗的火葬の火葬場
 仏教用語としてのサンマイ―大乗仏教経典の「三昧」
 サンマイという記号を基準とした分析方法―意味される内容の同質性
 古典にみる「三昧」―仏教教義から火葬墓制への語義変化
 『行基菩薩草創記』―千日墓所聖と「三昧」
二 火葬と遺体埋葬
 民俗事象としてのサンマイの比較―構図の類似性
 民俗語彙比較の問題点―欠陥の柳田民俗学
 サンマイ以外の両墓制民俗語彙⑴―タチバ
 サンマイ以外の両墓制民俗語彙⑵―ミステバ
 火葬を志向した中世―中世の火葬と近世の遺体埋葬

Ⅱ 両墓制のとらえられ方―問題点と課題
一 起点としての沖縄と風葬
 権威としての両墓制―学説形成の隠喩
 『民族と歴史』―佐喜真興英と喜田貞吉
 「火葬と大蔵」―喜田貞吉による火葬への着目
 伊波普猷「南島古代の葬儀」―原型としての風葬
 「ハフリ」―遺体処理を意味する記号表現
 伊波普猷の日琉同祖論―「日本文化の南漸」
 柳田国男「葬制の沿革について」⑴―「我々は三昧を墓だとは思つて居なかつた」
 柳田国男「葬制の沿革について」⑵―「第二の葬処こそ本当の我々の墓」
二 両墓制の「祖霊」祭祀
 「家永続の願ひ」―「祖霊」祭祀の強調
 『旅と伝説』誕生と葬礼号―墓制資料の本格的収集
 山村調査と大間知篤三「両墓制の資料」―両墓制用語の初出
 大間知篤三「墓制覚書」―両墓制用語の暫定性
 沖縄の洗骨・改葬の分離―大間知篤三による独立的研究課題の設定
 霊魂観研究としての両墓制―「固有信仰」としての「祖霊」祭祀
三 戦争と両墓制
 『民間伝承』の「生死観特輯号」―熊岡美彦「九軍神の肖像」
 柳田国男『先祖の話』―「七生報国」のなかの両墓制
 最上孝敬「両墓制について」―「埋め墓」と「詣り墓」
 佐藤米司『葬送儀礼の民俗』―「埋め墓」のケガレ
 学説形成の分解―研究課題の再設定
四 両墓制研究の転換
 原田敏明「両墓制の問題」―原型把握批判
 村瀬正章「〝墓のない家がある〟」―浄土真宗の「無墓制」
 森岡清美「墓のない家(墓制の一側面)」―浄土真宗の無石塔墓制と両墓制との比較
 森岡清美「墓のない家(墓制の一側面)」その後―浄土真宗の無石塔墓制の継続
 浄土真宗地域の非「祖霊」信仰―「阿弥陀仏」信仰
 火葬骨墓上植樹―「祖霊」信仰としての把握
 非「祖霊」的納骨塔―石塔以前を仮定
 両墓制解明の視点―無石塔墓制と両墓制との比較分析

Ⅲ 民俗的火葬からみた両墓制⑴―基本的要素の摘出
一 民俗的火葬から両墓制への転換
 宮本常一『河内国滝畑左近熊太翁旧事談』―真言宗地域での民俗的火葬から両墓制への転換
 滝畑ダム建設による墓地移転―滝畑の両墓制の変化
 真言宗地域の高野山納骨―本山納骨と石塔墓地
 橋本鉄男「ムシロヅケノ溜」―浄土真宗地域での民俗的火葬から両墓制への転換
 民俗的火葬からの転換による両墓制―その仏教儀礼的性格
二 民俗的火葬と両墓制の地域的併存
 同一集落内での併存―浄土真宗の民俗的火葬と曹洞宗・浄土宗の両墓制
 隣接地域での併存⑴―滋賀県琵琶湖湖東の民俗的火葬
 隣接地域での併存⑵―滋賀県琵琶湖湖東の両墓制
 隣接地域での併存⑶―三重県伊勢地方西部の民俗的火葬と両墓制
三 民俗的火葬と両墓制の同質性
 民俗的火葬と両墓制の同質性の仮定―比較分析のための基本的要素
 民俗的火葬の基本的要素―三重県桑名市多度町の事例
 部分収骨―岐阜県海津市の事例

Ⅳ 民俗的火葬からみた両墓制⑵―基本的要素の分析
一 民俗的火葬と両墓制の広域的併存
 県レベルの分布と併存―三重県・愛知県・福井県
 野葬礼・部分収骨・三分骨―残余火葬骨の遺棄
 オテツギ納骨―集落外のオテツギ寺院
 野葬礼での引導―三方湖畔のサンマイ
 遺体の忘却―若狭大島のサンマイ⑴
 現代の火葬受容による変化―若狭大島のサンマイ⑵
 ハイソウマイリについての仮説―おおい町佐分利川流域のミハカ⑴
 現代の火葬受容による変化―おおい町佐分利川流域のミハカ⑵
二 仏教寺院納髪・納骨
 仏教寺院納髪・納骨⑴―八葉寺
 仏教寺院納髪・納骨⑵―元興寺極楽坊
三 両墓制と無石塔墓制の本山納髪・納骨
 両墓制の本山納髪・納骨⑴―滋賀県高島市今津町のサンマイ
 両墓制の本山納髪・納骨⑵―滋賀県高島市安曇川町のサンマイ

Ⅴ 無石塔墓制からみた両墓制
一 無石塔墓制と両墓制の併存
 仏教民俗としての無石塔墓制と両墓制―石塔墓地の有無
 浄土真宗の無石塔墓制と浄土真宗以外の両墓制―滋賀県近江八幡市のサンマイ⑴
 浄土真宗による無石塔墓制の選択―滋賀県近江八幡市のサンマイ⑵
 寺院によるサンマイ―滋賀県近江八幡市のサンマイ⑶
二 無石塔墓制に石塔墓地の付加
 曹洞宗の無石塔墓制―滋賀県東近江市永源寺町のサンマイ⑴
 臨済宗の無石塔墓制―滋賀県東近江市永源寺町のサンマイ⑵
 浄土真宗の無石塔墓制―滋賀県東近江市永源寺町のサンマイ⑶
 無石塔墓制と両墓制・民俗的火葬の併存―墓制のわかりくにさ
三 サンマイから石塔墓地への移行
 寺院境内の隣接地型の両墓制―管理されるサンマイ
 ショウネを入れる―仏教的死者供養
 四十九日のハコワリ―単墓制との比較

Ⅵ 両墓制の仏教民俗的構成
一 「西方極楽」往生のためのサンマイ
 サンマイの地理と形状―集落はずれの長方形
 サンマイの構成―「南無阿弥陀仏」による「西方極楽」往生
 石塔墓地の地理―寺院境内
 遺体埋葬地と石塔墓地の対応関係―非一対一対応
二 サンマイの非家原理
 空き空間順葬法―非家原理⑴
 順列葬法―非家原理⑵
 年齢別葬法―非家原理⑶
 家別葬法―家原理
三 二つの仏教民俗
 サンマイの「西方極楽」往生―石塔以前
 石塔墓地の仏教的「祖霊」信仰―「お墓」の誕生
 サンマイから石塔墓地への移行―「西方極楽」往生と仏教的「祖霊」信仰の異質性


 両墓制と墓制史―サンマイへの石塔墓地の付加
 民俗―重層性と様式

参考文献
あとがき
プロフィール

岩田重則(いわた・しげのり)
1961年静岡県生まれ。専攻は歴史学/民俗学。現在、中央大学総合政策学部教授。
1994年早稲田大学大学院文学研究科史学(日本史)専攻博士後期課程単位取得退学。2006年博士(社会学。慶応義塾大学社会学研究科)。
著書に、『ムラの若者・くにの若者―民俗と国民統合』(未來社、1996)、『戦死者霊魂のゆくえ——戦争と民俗』(吉川弘文館、2003)、『墓の民俗学』(吉川弘文館、2003)、『「お墓」の誕生―死者祭祀の民俗誌』(2006、岩波新書)、『〈いのち〉をめぐる近代史―堕胎から人工妊娠中絶へ』(吉川弘文館、2009)、『宮本常一―逸脱の民俗学者』(河出書房新社、2013)、『天皇墓の政治民俗史』(有志舎、2017)、『日本鎮魂考―歴史と民俗の現場から』(青土社、2018)などがある。

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