平安時代後期に成立し、多数の諸本・膨大な異文が存在する『狭衣物語』。
三条西家本は、三条西実隆の息子で自身も多数の古典籍の書写や注釈をおこなっていた三条西公条によって、室町時代に書写されたと考えられる写本である。
室町時代においては理解が難しくなっていた平安時代の言葉を、書写当時(室町時代)の言葉に置き換えた本文を持ち、そこには原典を尊重するという意識とは遠く離れた書写態度が透かし見える。
本書は三条西家本をもとに校訂本文を作成し、物語内容の読解を促す梗概と注、特異な異同を取りあげる本文考を付すとともに、読みやすく充実した20のコラムを配置。
『狭衣物語』諸本の関係性のみならず、室町時代の書写と享受態度を考えるうえで、重要な役割を果たす一冊。
*『狭衣物語』とは…
平安後期の物語。作者は源頼国の娘である禖子内親王宣旨とする説が有力であるが、未詳。『源氏物語』の影響を受けた最初の頃の作品であるとされる。
*「三条西家」とは…
藤原氏北家のうち、三条家の庶流正親町三条家の分家。室町時代から安土桃山時代の実隆・公条・実枝は古典学者・歌人として名高く、古今伝授を継承した。なかでも実隆は中世文化・文学を代表する人物で、日記『実隆公記』は一流史料としても著名である。
※本書に誤植がございました。
訂正箇所は以下の通りでございます。
お詫びの上、訂正を申し上げます。(編集部)
290頁14行目 〔誤〕アソシエイトフォロー→〔正〕アソシエイトフェロー