著者はハーン、クローデルなど外国人の神道理解の経緯を客観的に述べるが、同時に内外の読者に霊の日本を共感的に理解させようと語りかける。
この日本語版はパリ出版の原著の里帰りであるが、この上なく明晰で、鮮やかで、わかりやすい。
平川祐弘は日本理解の大切な手がかりとして「霊の世界」を認めたハーンを論じ、彼を魅了した ghostly Japan を「霊に満ち満ちた日本」という精妙かつふくよかな言葉で表現した。平川は内と外から日本を見つめ、その精神世界の中心を問い続ける。『源氏物語』の物の怪から、日本文学の尽きざる源泉として霊の存在があると説き、夢幻能に登場する死者の霊をダンテが見た『神曲』の夢まぼろしになぞらえる……(今泉宜子)。
本書はパリで出版されたS. Hirakawa, À la recherche de l’identité japonaise― le shintō interprété par les écrivains européens の増補日本語版だが、フランス的明晰とはこのことか。日本人のアイデンティティーとしての固有の宗教文化をこれほどすっきり納得させてくれる書物は稀である。蓮如賞受賞。