宗教と文学の両面から二重の性格を兼ね、様々な読まれ方をしてきた『今昔物語集』。多くの文学者や研究者が説話の宝庫として注目することで、『今昔物語集』は「古典」となったと言える。
本書では、天竺説話の舞台でもある須弥山世界観の検証、これまで本格的に検証されていなかった天竺の無熱池論、『大唐西域記』など東アジア漢文諸資料から、図像資料などともあわせて、その表現過程の変遷について検証する。
また、中国古典や漢訳仏典を博捜し、『今昔物語集』を世界文学としての面から新たに位置づけようとした南方熊楠の方法論を、『太平広記』や『夷堅志』、『聊斎志異』への書き込みなどから解明する。
世界規模での説話の源流とその変容、展開を軸に、説話文学の世界を東アジアから読み解く。