渋谷の雑踏に生きる自由猫たちの猫生を軽妙に描く傑作エッセイ。
私は、ほとんど眠ることのない街の、眠ることのない場所に住んでいる。
ほとんど眠らない街とは、東京渋谷の、通称公園通りと呼ばれる、たぶん今、日本で一番若者が集まってくる坂道のことである。
眠ることのない場所とは、本当は眠るための場所なのだと、ややこしい言い方になってしまうが、つまりはホテルのことである。
…(中略)…
人は夥しく流れていくけれど、人が住まなくなった公園通りには、どうかたくさんの動物が生活を営んで欲しい。
なにも街は人間だけの街ではないのだ。人間以外の生命がいなくなったら、その街は死んでいるのである。
―そして、日が落ちる頃、私の好きな猫たちが目をさまして、坂道の街に姿を見せはじめるのだ。
(本文より)