今日の日本と世界には、目を覆いたくなるような事件や出来事が満ち、政治、経済、社会のどの分野でも将来に希望をもてるような展望が一向に見えてこない。動機が不明な殺人、自殺の多発、増税と老後の生活不安と政治不信、官僚や企業による金銭問題、治安の悪化、いつまでたっても安定しない経済。国際社会では紛争や戦争の過程で、モノを「壊す」ように人を殺している。
多くの日本人は、いったい今の日本や世界はどうなっているのか、どのように理解したらよいのか、これからどうなってゆくのか、いつごろからなぜ、こんな風に変わってしまったのかといった暗澹たる想いと素朴な不安を抱いている。これらは、一種の社会的病理といってもよい。
一つひとつの問題に対しては「専門家」が原因その他を説明してくれるが、何が進行しているのか、何を意味しているのかという全体状況については正体がわからない。実は、私たちの不安とは、正体がわからない不安である。
本書は、現代の社会的病理の根底に横たわる問題として「関係性の喪失」「物語の喪失」「想像力・共感力の喪失」という三つの喪失を取り上げ、それらを切り口として、「壊れてゆく」日本と世界を読み解くことを目的としている。
「壊れてゆく」内容は、これまで安心と安定を与えてくれた仕組みや心のバランス、いのちへの尊厳などである。
「壊れてゆく」状況を生みだしている主要な震源は、自然と人間・人と人との関係性の喪失であり、それに個人と国家社会・世界が将来を見通した見取り図を描けないこと=「物語」の喪失、自然や人に対する想像力(したがって共感力)の喪失、を加えた三つの喪失が密接に関連しながら現代の日本と世界の社会病理を構成している。本書は、これらの喪失をもたらした深淵を歴史的に探ってゆく。